便秘
便秘

「お腹がすっきりしない」「排便が困難」「何日も便が出ない」……これらは便秘症の代表的なサインです。
便秘症は身近な症状ですが、生活の質(QOL)を大きく損なうだけでなく、放置すると大腸疾患の発見が遅れることがあります。
当院では最新のガイドライン(便通異常症診療ガイドライン2023)に基づいた診断と治療を行っています。
「便秘」は単なる排便回数の減少を意味するのではなく、排便に関するさまざまな不快症状を含む概念です。
「便通異常症診療ガイドライン2023」では以下のように定義されています。
便秘(状態名)の定義
「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排出できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」
慢性便秘症(疾患名)の定義
「慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり、身体にも種々の支障をきたしうる病態」
重要なのは、「便秘」は状態名であり、「慢性便秘症」は疾患名であるという点です。
排便に関する症状が慢性的に続き、日常生活に支障をきたしている場合に治療の対象となります。
以下の6項目のうち2項目以上が「6か月以上前から症状があり、最近3か月間は基準を満たす」場合に、機能性便秘症と診断されます。
超高齢社会の進展に伴い、慢性便秘症の患者数は増加の一途をたどっています。
特に60歳代までは女性に多いですが、70歳以上では男女ともに有病率が著しく高くなります。
慢性便秘症は原因と病態の両面から体系的に分類されます。
ガイドライン2023では、まず一次性と二次性に大別され、さらに症状の観点から「排便回数減少型」と「排便困難型」に分類されます。
| 分類 | タイプ | 説明 |
|---|---|---|
| 一次性 | 機能性便秘症 | 大腸の形態的変化を伴わない便秘。最も頻度が高く、大腸通過正常型・遅延型、機能性便排出障害に細分される。 |
| 便秘型過敏性腸症候群(IBS-C) | 腹痛を伴う機能性便秘。腹部不快感・腹痛が排便に関連して出現する。 | |
| 非狭窄性器質性便秘症 | 直腸瘤、直腸重積、慢性偽性腸閉塞症、巨大結腸などが原因となる。 | |
| 二次性 | 薬剤性便秘症 | 抗コリン薬、三環系抗うつ薬、オピオイド系鎮痛薬、抗がん剤などが原因。 |
| 症候性便秘症 | 糖尿病、甲状腺機能低下症、パーキンソン病、強皮症などの基礎疾患が原因。 | |
| 二次性(要注意) | 狭窄性器質性便秘症 | 大腸がんや炎症性腸疾患による腸管狭窄が原因。警告症状に注意が必要。 |
症状の観点からは「排便回数減少型(便が出ない)」と「排便困難型(便が出せない)」に分類されます。
機能性便秘症の多くが排便回数減少型であり、治療方針の選択においてこの病態分類が重要です。
便秘症を引き起こす原因は多岐にわたります。
機能性便秘症では生活習慣の影響が大きく、二次性便秘症では基礎疾患や服用薬が関与します。
生活習慣・環境因子
食物繊維の不足、水分摂取不足、運動不足、排便習慣の乱れ(便意の我慢)、食事摂取量の減少など
加齢・身体的要因
加齢に伴う大腸の蠕動運動低下、腹筋力の低下、骨盤底筋機能の低下。高齢者・女性はリスクが高い。
基礎疾患(症候性)
糖尿病、甲状腺機能低下症、パーキンソン病、脊髄損傷、強皮症、うつ病などの精神疾患
薬剤性
抗コリン薬(蠕動・腸液分泌を抑制)、向精神薬、オピオイド系鎮痛薬(コデイン・トラマドールなど)、一部の降圧薬・鉄剤
手術歴
腹部手術(特に大腸手術や婦人科手術)の既往は便秘のリスク因子となる
心理的因子
ストレスや不安・うつなどの心理的異常は大腸運動機能に影響し、便秘症の発症・悪化に関与する
便秘症の診療で最も重要なのは、機能性便秘症と器質性便秘症(大腸がんなどによる便秘)を鑑別することです。
ガイドライン2023では、警告症状・徴候の評価が特に強調されています。
血便・下血、体重減少(6か月で10%以上)、貧血(鉄欠乏性貧血)、大腸がんの家族歴、50歳以上での急な排便習慣の変化、腹部腫瘤の触知、便が急に細くなった など
問診・身体診察
排便習慣・便性状(Bristol便形状スケールを活用)・随伴症状・内服薬・既往歴・手術歴を詳細に聴取します。
腹部触診・聴診による糞便貯留や腹部膨満の確認、必要に応じ直腸指診を行います。
腹部X線検査
腸管内の糞便貯留の程度・分布や腸管ガスのパターンを評価します。
痛みを伴わず短時間で実施でき、便秘の重症度の把握や治療効果の確認に有用です。
腹部超音波検査(腹部エコー)
放射線被曝なく腹部臓器を評価できる安全な検査です。
大腸内の便貯留状況の確認に加え、便秘の背景にある腹部腫瘤・卵巣嚢腫・腹水などの器質的疾患の除外に有用です。
また体外式超音波では直腸内の便貯留の有無や性状(硬便・軟便)を評価でき、排便困難型の病態把握にも役立ちます。
被曝がなく繰り返し施行できるため、経過観察にも適しています。
血液検査
甲状腺機能低下症・糖尿病・貧血など、便秘の原因となりうる全身疾患のスクリーニングを行います。
酸化マグネシウム内服中の方には血清マグネシウム値の定期モニタリングも行います。
大腸内視鏡検査
警告症状がある場合や器質性疾患が疑われる場合に施行します。
大腸がん・炎症性腸疾患・大腸ポリープなどを直接観察して除外でき、便秘症の安全な治療を開始するための重要な検査です。
大腸がんの早期発見にも非常に有用です。
慢性便秘症の治療は、生活習慣の改善を基盤とし、必要に応じて薬物療法を組み合わせます。
ガイドラインでは、病態に応じた個別化治療が推奨されています。
食物繊維の摂取
腸内環境を整え便量を増やす。野菜・海藻・豆類・果物などを積極的に摂取する。
水分摂取
十分な水分補給により便の硬化を防ぐ。1日1.5〜2リットルを目安に。
適度な運動
ウォーキング・ストレッチなどの有酸素運動が大腸の蠕動運動を促進する。
排便習慣の確立
毎日同じ時間(食後が最適)にトイレに座る習慣をつける。便意は我慢しない。
ガイドラインで強い推奨(エビデンスレベルA)とされた薬剤を中心に、病態に合わせて選択します。
【第一選択】
浸透圧性下剤
酸化マグネシウム(塩類下剤)、ポリエチレングリコール(PEG)製剤(モビコール)、ラクツロース(ラグノス)。腸内の水分を引き込み便を軟化させる。※酸化マグネシウムは高齢者・腎機能低下者では高マグネシウム血症に注意し、定期的な血液検査が必要。
【推奨度高(エビデンスA)】
上皮機能変容薬
ルビプロストン(アミティーザ)、リナクロチド(リンゼス)。腸管内への水分分泌を促進し、便の水分含量を増やして排便を改善する。
【推奨度高(エビデンスA)】
胆汁酸トランスポーター阻害薬
エロビキシバット(グーフィス)。回腸末端での胆汁酸の再吸収を阻害し、大腸への胆汁酸流入を増加させることで腸管運動と水分分泌を促進する。
【オンデマンド使用】
刺激性下剤
センノシド、ピコスルファートナトリウムなど。大腸蠕動を直接刺激する強力な作用を持つが、長期連用により耐性が生じる可能性があるため、頓用または短期間の使用が推奨される。
【補助療法】
膨張性下剤・プロバイオティクス・漢方薬
代替・補助治療薬として位置づけられる。プロバイオティクスは腸内細菌叢の改善を通じた効果が期待される。大建中湯などの漢方薬も補助的に使用される。
【外用薬・処置】
坐剤・浣腸・摘便
新レシカルボン坐剤などの坐剤や浣腸は、便排出障害の原因によらず排便を誘発する効果がある。直接的な効果が必要な際に用いる。
便秘症の治療は「病態の把握→生活習慣の改善→薬物療法(段階的選択)」が基本です。
自己判断で市販の刺激性下剤を長期連用することは推奨されません。症状が続く場合は専門医への受診をお勧めします。
上皮機能変容薬・胆汁酸トランスポーター阻害薬などの新薬は、従来薬で効果不十分な場合に使用できます。
便秘症は放置すると大腸疾患の発見が遅れるだけでなく、近年の研究では慢性便秘が心血管疾患リスクの上昇とも関連することが報告されています。
「たかが便秘」と自己判断せず、症状が続く場合は消化器内科専門医へご相談ください。
当院では腹部超音波検査・大腸内視鏡検査を含む詳細な検査と、最新ガイドラインに基づいた治療を提供しています。
はい、あります。便秘症の診断は排便回数だけで決まるものではありません。
毎日排便があっても、強いいきみが必要・便が硬い・残便感がある・直腸肛門に詰まった感じがある、といった「排便困難型」の症状が続いている場合は、慢性便秘症に該当することがあります。
ガイドラインでも、排便回数の減少だけでなく排便困難症状が便秘症の重要な定義要素とされています。症状でお困りの場合はご相談ください。
長期連用は推奨されません。センノシドなどの刺激性下剤は大腸の蠕動運動を直接刺激する強力な薬ですが、ガイドラインでは「頓用または短期間の使用」が推奨されています。
長期連用により大腸が薬に依存してしまい効果が減弱する(耐性)可能性が指摘されています。
また、大腸メラノーシス(大腸粘膜の色素沈着)を引き起こすことがあります。
便秘が慢性的に続く場合は、浸透圧性下剤や新しい作用機序の薬への切り替えを専門医にご相談ください。
すべての方に必須というわけではありませんが、一定の条件では強く推奨されます。
ガイドラインでは「警告症状・徴候」がある場合に大腸内視鏡検査が必要とされています。
具体的には、血便・黒い便、6か月で10%以上の体重減少、貧血、大腸がんの家族歴、50歳以上での急激な排便習慣の変化、腹部腫瘤の触知などが該当します。
これらに当てはまらない若い方の機能性便秘症では、問診・腹部X線・超音波検査などで評価し、必要に応じて内視鏡検査を行います。
通常量であれば比較的安全な薬ですが、注意が必要な方がいます。
酸化マグネシウムは浸透圧性下剤として第一選択薬の一つに位置づけられていますが、高齢者や腎機能が低下している方では「高マグネシウム血症」を引き起こすリスクがあるため、定期的な血清マグネシウム値のモニタリングが推奨されています。
高マグネシウム血症は嘔気・筋力低下・意識障害などをきたす場合があります。
長期内服中の方は定期的な血液検査を受けるようにしてください。当院でも定期モニタリングを行っています。
生活習慣の改善で効果が不十分な場合は、まず便秘の「タイプ」を正確に診断することが重要です。
当院では問診・腹部X線検査・腹部超音波検査・血液検査・必要に応じた大腸内視鏡検査で病態を評価します。
その上で、浸透圧性下剤(酸化マグネシウム・ポリエチレングリコール製剤など)を基本に、効果不十分な場合は上皮機能変容薬(ルビプロストン・リナクロチド)や胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット)など、新薬への切り替えや追加を検討します。
症状に合わせた個別化治療を提案しますので、まずはご受診ください。
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